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水戸地方裁判所 平成8年(ワ)221号 判決 1999年11月25日

原告

吉田千秋

被告

小松伸一

ほか一名

主文

一  被告小松伸一は、原告に対し、金一億三九八五万六八三一円及びこれに対する平成六年二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告富士火災は、原告に対し、金一億三九八五万六八三一円及びこれに対する平成七年七月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その六を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は一、二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告小松伸一は、原告に対し、金二億三九四二万〇五二九円及びこれに対する平成六年二月一二日(本件事故発生の日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告富士火災海上保険株式会社(以下「被告富士火災」という。)は、原告に対し、金二億円を支払え(なお、認容金額が二億円に満たないときは、右認容金額に対する平成六年二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求めているものと解することができる。)。(ただし、右一及び二は金二億円の限度で連帯関係にあるものと主張されている。)

第二事案の概要

本件は、被告小松伸一が自己所有の普通乗用自動車を運転中に原告運転の普通乗用自動車に衝突させて原告に負傷させたとして、原告が、自動車損害賠償保障法三条に基づき被告小松伸一に対し損害賠償を請求し、原告との間の無保険車傷害保険契約に基づき被告富士火災に対し保険金を請求した事案である。

一  争いのない事実(証拠掲記のないもの)及び争点判断の前提事実(証拠掲記のあるもの)

1  次のとおり交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成六年二月一二日午前三時三五分ころ

(二) 場所 茨城県ひたちなか市東大島二丁目二番二六号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 被告小松伸一所有の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

(四) 右運転者 被告小松伸一

(五) 被害車両 原告所有の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

(六) 右運転者 原告

(七) 態様 被告小松伸一運転の被告車は、本件交差点内で原告車と衝突した。

2  責任原因

(一) 被告小松伸一は、被告車を所有して、これを自己のため運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法三条本文に基づき、本件事故により生じた原告の損害を賠償する義務を負う。

(二) 原告と被告富士火災は、平成五年一二月二九日、左記のとおり無保険車傷害保険の契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

(1) 被保険者 原告

(2) 保険金額 二億円

(3) 被保険車両 原告車

(4) 保険内容

ア 被告富士火災は、無保険自動車の所有、使用または管理に起因して被保険車両の正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者の生命が害されること、または身体が害されその直接の結果として後遺障害が生じることによって被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被る損害について、賠償義務者がある場合に限り、無保険車傷害条項及び一般条項に従い、保険金を支払う。

イ 被告富士火災は、一回の無保険車事故による損害の額が、次の1及び2の合計額を超過する場合に限り、その超過額についてのみ保険金を支払う。

1 自賠責保険等によって支払われる金額

2 対人賠償保険等によって、損害のてん補を受けることができる場合は、その対人賠償保険等の保険金額または共済金額

3  既払金

原告は、本件事故について自賠責保険から三一二〇万円の損害のてん補を受けた。

4  原告は、本件事故による脳挫傷及び脳萎縮による障害により心身喪失の常況にあるとの理由で、平成八年三月七日禁治産宣告の審判を受け、原告の父吉田曻が後見人に選任された。(甲一号証)

二  (争点)

1  本件事故による傷害及び後遺障害の程度並びに治療の必要性

2  原告の損害額(治療費、文書料、入院雑費、付添看護費、通院交通費、通院付添費、看護用具等購入費、風呂場改造費、駐車料金、宿泊料、付添用貸ベッド代、老人保健施設使用料、休業損害、逸失利益、慰謝料、将来の介護費、将来の職業付添人交通費、将来の通院交通費、過去及び将来のオムツ代、将来の看護用具購入費、弁護士費用等)

3  過失相殺

4  定期金賠償判決の可否

5  本件保険契約がてん補する損害の範囲(弁護士費用及び遅延損害金)

第三争点に対する判断

一  本件事故による傷害及び後遺障害の程度並びに治療の必要性

証拠(甲五号証、六号証)によれば、原告は、本件事故により、脳挫傷等の傷害を受けたが、平成六年八月一〇日にその症状が固定し、後遺障害として四肢マヒ、失語症及び意識障害が残存していること、右後遺障害の程度は、後遺障害等級表の一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を必要とするもの)に該当することが認められる。

証拠(甲八号証の1ないし9、二二号証、二六号証の1ないし8、二九号証の1ないし16、三六号証、四一号証、四九号証ないし五一号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告の治療経過は以下のとおりであることが認められる。

1  国立水戸病院

平成六年二月一二日から同年三月一一日まで二八日間入院

2  大洗海岸病院

平成六年三月一一日から同年八月二七日まで一六九日間入院

3  勝田病院

平成六年八月二七日から平成七年二月二八日まで一八五日間入院

4  筑波大学付属病院(リハビリ・機能回復訓練)

平成七年六月五日から平成九年一一月一二日まで週約一回通院(実日数九五日)

5  筑波記念病院(リハビリ・言語回復訓練)

平成八年三月六日から平成九年一一月一二日まで週約一回通院(実日数五七日)

6  順天堂医院(リハビリ)

平成九年一一月二〇日から同年一二月一九日まで三〇日間入院

平成一〇年一月五日から同月一三日まで通院(実日数四日)

7  山梨温泉病院(リハビリ)

平成一〇年一月一四日から同年三月一七日(主張上の終期)まで六三日間入院

8  県立医療大学付属病院(リハビリ)

平成一〇年四月二七日から同年一〇月一二日(主張上の終期)まで通院(実日数三〇日)

前判示のとおり、原告の後遺障害は平成六年八月一〇日に症状が固定しているが、乙七号証によれば、その症状は四肢マヒ、失語症及び意識障害であり、具体的には「応答はできない。眼瞼を閉じることで意思の疎通ができることもある。四肢ともこう縮状態であるが、右手をわずかに動かす。いわゆる寝たきり状態である。」状態にあったことが認められる。かように重篤な後遺障害に陥っていた原告は、症状固定後であっても、症状の悪化を防ぎその生命を維持するために平成七年二月二八日に勝田病院を退院するまで入院治療の必要があったというべきである。

リハビリの要否について判断するに、証拠(甲二二号証、三六号証、原告法定代理人)によれば、原告は、平成七年三月ころから人の話を聞いて笑ったり、テレビをじっと見たりするようになり、その意識状態が好転しだしたこと、そこで、平成七年六月五日から筑波大学付属病院で機能回復訓練を内容とするリハビリを受けたところ、手足がある程度動くようになり、おやつを自分で取って食べたり、音楽を聞いて手足を動かして喜んだりするようになったこと、さらに、平成八年三月一三日から筑波記念病院で言語回復訓練を内容とするリハビリを受けたところ、声は出せないが発声するときのように口を動かすようになったこと、また、平成九年一一月二〇日から順天堂医院に入院してリハビリを受けたところ、緊張を緩和させて身体をよりスムーズに動かすことができるようになったこと、平成一〇年一月一四日から山梨温泉病院で、平成一〇年四月二七日から県立医療大学付属病院で、リハビリを受けたところ、意識状態及び運動機能がさらに改善したこと、そして、現在では、漢字の単語も読める、「おはよう」「おやすみ」の言葉をゆっくりと話すことができる、二桁の足し算ができる、右手右足はかなり自由に動かせる、右手で車椅子がこげる、介助は要するものの普通食を通常人に近い早さで食べることができるようになったことが認められる。そうすると、右4ないし8記載の各リハビリは、いずれも、原告に効果があったということになる。

してみると、右1ないし3の各治療及び右4ないし8記載の各リハビリは、いずれもその必要性があったことになるから、本件事故との間に相当因果関係があることになる。

二  原告の損害額について

1  治療費 合計三二〇万三三三七円

(一) 国立水戸病院 五五万五四三〇円

証拠(甲八号証の1、2)によれば、原告は平成六年二月一二日から同年三月一一日までの二八日間国立水戸病院に入院し、その間の治療費として五五万五四三〇円を要したことが認められる。

(二) 大洗海岸病院 一一〇万八七三〇円

証拠(甲八号証の3ないし5)によれば、原告は平成六年三月一一日から同年八月二七日まで一六九日間大洗海岸病院に入院し、その間の治療費として一一〇万八七三〇円を要したことが認められる。

(三) 勝田病院 二二万九八六〇円

証拠(甲八号証の6ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は平成六年八月二七日から平成七年二月二八日まで一八五日間勝田病院に入院し、医療費免除となる前の平成六年九月末日までの間の治療費として二二万九八六〇円を要したことが認められる。

(四) 順天堂医院 一一九万九一九七円

証拠(甲二六号証の1ないし8)及び弁論の全趣旨によれば、原告はリハビリのため順天堂医院に平成九年一一月二〇日から同年一二月一九日まで三〇日間入院した上、平成一〇年一月五日から同月一三日まで通院(実日数四日)し、その間の治療費として一四六万〇四八二円を要したこと、原告は右リハビリにつき医療福祉給付金として二六万一二八五円を受領したので、これを控除すると残額は一一九万九一九七円となることが認められる。

(五) 山梨温泉病院 一一万〇一二〇円

証拠(甲二七号証の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、原告はリハビリのため山梨温泉病院に平成一〇年一月一四日から同年二月一五日まで入院し、その間の治療費として四四万二七九〇円を要したこと、原告は右リハビリにつき医療福祉給付金として三三万二六七〇円を受領したので、これを控除すると残額は一一万〇一二〇円となることが認められる。

2  文書料 八万八八二〇円

証拠(甲八号証の1ないし6、10、11、三五号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故によって提出を余儀なくされた診断書等の文書料として、国立水戸病院、大洗海岸病院及び勝田病院において合計八万八八二〇円を支出したことが認められる。

3  入院雑費 六一万七五〇〇円

前判示のとおり、原告は本件事故により合計四七五日間入院したことになる。そして、右入院期間中の入院雑費は、一日当たり一三〇〇円と認めるのが相当である。

4  付添看護費ないし付添介護費

合計一二一六万三一四二円

(一) 近親者分(事故日から平成一〇年一〇月三一日までのもの) 一一九二万八〇〇〇円

証拠(甲二一号証、二二号証、二五号証の2、三六号証、原告法定代理人)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告は、本件事故日である平成六年二月一二日から平成七年二月二八日まで国立水戸病院、大洗海岸病院及び勝田病院に入院していたが、この間四肢マヒ、失語症及び意識障害の症状で寝たきりであったため常時看護を要する状態であり、原告の父母は痰の吸引、オムツ交換等の看護のため昼夜の別なく常時交代で病床に付き添っていた。原告の父は介護に専念するため定年の一年くらい前である平成六年一一月二〇日に日立多賀エンジニアリング株式会社を退職した。

(2) 一で判示したとおり、原告は、勝田病院退院後の平成七年三月ころから人の話を聞いて笑ったりするようになり、その意識状態が好転しだしたので、平成七年六月五日から筑波大学付属病院等でリハビリを受け続けたところ、その効果があって現在では、漢字の単語も読める、「おはよう」「おやすみ」の言葉をゆっくりと話すことができる、二桁の足し算ができる、右手右足はかなり自由に動かせる、右手で車椅子がこげる、介助は要するものの普通食を通常人に近い早さで食べることができるようになった。しかし、現在でも、原告は、左片マヒ及び右痙性不全片マヒの症状を有しており、歩行ができず、自力で座ることもできず、排尿排便、入浴及び衣服の着脱も自力で行うことができず、右手も目的的に動かすには不自由があり食事の自力摂取も困難である。このため、原告の父母が、右不全部分を補うため原告の日常生活全般にわたり常時介護を行っている。

(3) 一6、7で判示したとおり、原告は、平成九年一一月二〇日から同年一二月一九日まで三〇日間リハビリのために順天堂医院に入院し、平成一〇年一月一四日から同年三月一七日(主張上の終期)まで六三日間リハビリのために山梨温泉病院に入院したが、原告の父母は、右順天堂医院入院中も騒ぐ原告を落ち着かせるため終始付添介護を余儀なくされ、右山梨温泉病院入院中も病院の指示でリハビリ方法習得等のため付添介護を余儀なくされた。他方、後記(二)のとおり、原告の父母は、平成六年一〇月一二日からの合計一九日間は原告の妹の結婚式等のため職業的付添人を頼んだので、そのときは原告の介護をせずに済んだ。

右認定事実によれば、原告主張の事故日(平成六年二月一二日)から平成一〇年一〇月三一日までの一七二三日間のうち、職業的付添人を頼んだ一九日間を除いた一七〇四日間は、近親者の付添看護ないし付添介護が必要だったと認められる。そして、原告の症状及び付添看護(介護)の程度等に照らすと、原告の父母が付添看護(介護)したことによる付添看護費ないし付添介護費は一日当たり七〇〇〇円と認めるのが相当である。してみると、右一七〇四日間の近親者の付添看護費ないし付添介護費は一一九二万八〇〇〇円となる。

(二) 家政婦分 二三万五一四二円

証拠(甲九号証の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、平成六年一〇月一二日からの合計一九日間は原告の妹の結婚式等のため近親者が原告の介護をすることができなかったので職業的付添人を頼まざるを得なかったが、その費用として合計二三万五一四二円を支出したことが認められる。

5  通院交通費 合計八一万一一五〇円

一で判示した事実、証拠(甲二八号証、三六号証、原告法定代理人)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係のあるものとして少なくとも原告主張のとおり左記病院へ通うための各交通費の支出があったことが認められる。

(一) 筑波大学付属病院・筑波記念病院 四四万二八〇〇円

(二) 順天堂医院 一七万七五〇〇円

(三) 山梨温泉病院 八万六四五〇円

(四) 県立医療大学付属病院 一〇万四四〇〇円

6  通院付添費

原告は、平成七年六月五日から平成八年四月まで筑波大学付属病院及び筑波記念病院に合計五四回通院した際原告の父母が付き添ったとして通院付添費一六万二〇〇〇円を請求している。しかしながら、4(一)で判示したとおり、右通院日に一日当たり七〇〇〇円の近親者の付添介護費の損害を認めており、右通院付添費も右付添介護費の内容に含まれるとみるべきであるから、原告の右通院付添費の主張は採用できない。

7  看護用具等購入費 合計二〇二万一三二三円

前判示の原告の症状、通院状況に照らすと、原告の介護やリハビリ等のためには、エアマット、車椅子、浴槽及び通院用ワゴン車が必要であるといえる。そして、証拠(甲一〇号証、一一号証、一二号証の1、2)によれば、その代金として左記のとおり支出したことが認められる。

(一) エアマット代 一三万八〇〇〇円

(二) 車椅子・浴槽代 七万六九三〇円

(三) 通院用ワゴン車購入代 一八〇万六三九三円

8  風呂場改造費 一〇六万七二二五円

前判示の原告の症状に照らすと、原告の介護のためには、風呂場の改造が必要であるといえる。そして、証拠(甲一三号証の1ないし9、原告法定代理人)及び弁論の全趣旨によれば、原告の父は、寝たままの状態で入浴できるように材料を購入して風呂場を改造したこと、そのための材料費、配線工事代金及びタイル工事代金として合計一〇六万七二二五円を支出したことが認められる。

9  駐車料金 四八〇〇円

原告は、順天堂医院入院中の二一日分の病院地下駐車場の駐車料金六万三〇〇〇円を請求しているが、これを認めるに足りる証拠はない。

他方、証拠(甲三〇号証)によれば、順天堂医院通院中の四日分の病院地下駐車場の駐車料金四八〇〇円を支出したことが認められる。この駐車料金四八〇〇円は本件事故と相当因果関係のある損害といえる。

10  宿泊料 一一万七四八七円

一で判示したとおり、原告は平成一〇年一月一四日から同年三月一七日(主張上の終期)まで六三日間山梨温泉病院にリハビリのため入院していたが、証拠(甲三六号証、原告法定代理人)及び弁論の全趣旨によれば、同病院の要請により原告の父母もリハビリ術を習得するため原告に付き添う必要があったこと、他方同病院が自宅から遠方にあるため介護を交代した原告の父母が休息をとるために同病院の近くに宿をとる必要があったことが認められる。してみると、右宿をとるための宿泊料も、本件事故と相当因果関係のある損害といえることになる。ところで、原告は、右宿泊料として一四泊分の二四万七〇四七円の支出があったと主張するが、証拠(甲三一号証の2ないし8)によれば、領収証をもって証明できる宿泊料は、右のうち八泊分の一一万七四八七円だけであり、その余の宿泊料は、甲三一号証の1(原告法定代理人作成の宿泊内訳のメモ)に記載はあるものの、これにより証明されているとまではいえない。

11  付添用貸ベッド代 二万〇五五〇円

四(一)(3)で判示したとおり、原告は平成九年一一月二〇日から同年一二月一九日まで三〇日間リハビリのために順天堂医院に入院したが、この間原告の父母も病室で騒ぐ原告を落ち着かせるため終始付添介護を余儀なくされた。そうすると、右付添介護のために借りた貸ベッド代金は、本件事故と相当因果関係のある損害といえる。証拠(甲三二号証)によれば、右貸ベッド代金は合計二万〇五五〇円であることが認められる。

12  その他の介護必需品関係 七万一三三九円

証拠(甲三三号証の1ないし4、三六号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、電動介護リフト等のレンタル料、座位保持装置等の自己負担分及び特殊寝台等の自己負担分として、合計七万一三三九円を支出したこと、右各機器は原告の介護に必要なものであることが認められる。してみると、右合計七万一三三九円は、本件事故と相当因果関係のある損害といえる。

13  老人保健施設使用料

証拠(甲三四号証の1ないし4、三六号証)によれば、原告の祖母吉田ふみが平成一〇年一月一一日から同年二月一八日まで茨城県那珂郡東海村所在の老人保健施設サンフラワー東海に預けられ、その費用として合計七万一五九〇円が支出されたことが認められるが、右期間中原告が入院していたとしても、右費用は本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。

14  休業損害 一六三万三八六〇円

証拠(甲一四号証の1、2、一五号証)によれば、原告は平成五年一月から同年一二月までお好み焼屋に、同年一一月から同年一二月までは「テレホン・オフィス・パートナー」に勤務し、本件事故の前年の平成五年には合計三三一万三三二五円の所得があったことが認められる。そうすると、原告の休業損害の基礎となる収入額は、年額三三一万三三二五円(一日当たり九〇七七円)とするのが相当である。

そして、本件事故日の平成六年二月一二日から症状固定日の平成六年八月一〇日までの一八〇日間全く就労不能であったことにより一六三万三八六〇円の損害を受けたことになる。

15  逸失利益 五八一三万五二六九円

証拠(甲二号証)によれば、原告は、昭和四五年六月一四日生まれの女性で、前記症状固定時二四歳であったから、六七歳まで四三年間就労可能であったことが認められる。また、原告は、前記のとおり、本件事故により後遺障害等級一級三号に該当する後遺障害を負ったことからすれば、その終生にわたって労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認めるのが相当である。したがって、逸失利益の算定の基礎となる原告の年収額を前記休業損害の算定の基礎となる年収額と同じ三三一万三三二五円とし、労働能力喪失割合一を乗じ、中間利息を控除すべくライプニッツ係数一七・五四五九を乗じて、原告の逸失利益を算出すると、五八一三万五二六九円となる。

なお、被告富士火災は、原告の後遺障害は重度であり、教養娯楽費等の支出を免れるので、三〇パーセント程度の生活費控除をすべきであると主張する。しかしながら、原告は、一で判示したとおり、両親の介護を受けながら自宅で療養やリハビリに励んでおり、そのために相当の生活費を必要としているのであるから、被告富士火災の右主張は採用できない。

16  傷害慰謝料 二三〇万円

本件事故日の平成六年二月一二日から症状固定日の平成六年八月一〇日までの入院期間が一八〇日間となること及び原告の前記傷害の内容、程度等を考慮すると、本件事故による原告の傷害(入院)に関する慰謝料としては、二三〇万円が相当であると認められる。

17  後遺障害慰謝料 二六〇〇万円

前記後遺障害の内容・程度(後遺障害等級一級三号該当)、事故態様、その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、原告の後遺障害による慰謝料としては、二六〇〇万円が相当であると認められる。

18  将来の介護費(請求区分時平成一〇年一一月一日以降のもの) 四八四七万〇八六八円

前判示のとおり、原告は、一級三号の後遺障害を有し、平成七年三月ころ以降症状は好転しているものの、現在でも、左片マヒ及び右痙性不全片マヒの症状が残存しており、それゆえ、歩行ができず、自力で座ることもできず、排尿排便、入浴及び衣服の着脱も自力で行うことができず、右手も目的的に動かすには不自由があり食事の自力摂取も困難であり、原告の父母による常時介護が必要な状態にある。

また、原告は、昭和四五年六月一四日生まれの女性で、平成六年八月一〇日の症状固定時二四歳であり、平成六年簡易生命表によれば、その時点での平均余命は五九・六三年であった。すると、原告の請求の始期である平成一〇年一一月一日時点での原告の余命は、五五年となる。

証拠(甲一二号証の1、四三号証)によれば、原告の父吉田曻は昭和一〇年一一月八日生まれで右平成一〇年一一月一日時点で六二歳、原告の母は同時点で五六歳であることが認められる。

そうすると、右時点から原告の母が平均労働可能年齢である六七歳に達するまでの一一年間は父母二人で原告の介護をすることができると認められるが、その余の四四年間は職業付添人の介護を要するものというべきである。そして、近親者の介護費は一日当たり七〇〇〇円と、職業付添人の付添介護費は一日当たり一万円と認めるのが相当である。中間利息の控除につきライプニッツ方式を用いて計算すると、次の各金額となり、これを合算すると四八四七万〇八六八円になる。

(一) 近親者付添費

七〇〇〇×三六五×(一〇・三七九六-三・五四五九)=一七、四六〇、一〇三(円未満切捨て)

(二) 職業付添人費

一〇、〇〇〇×三六五×(一八・八七五七-一〇・三七九六)=三一、〇一〇、七六五

19  将来の職業付添人交通費

原告は、将来の職業付添人交通費として一日当たり一〇〇〇円を請求しているが、右職業付添人費のほかにこれを認めなければならない理由が見当たらない。

20  将来の通院交通費

原告は、今後もリハビリの継続が必要不可欠であるとして将来の通院交通費四三七万六四四九円を請求している。一で判示したとおり、これまでのリハビリはいずれも原告に効果があり必要性が認められた。しかし、将来のリハビリのための通院についてはその必要性が明らかではないから、現時点では原告主張の将来の通院交通費は損害とは認められない。

21  過去及び将来のオムツ代 合計四九八万一九七八円

原告は、事故日である平成六年二月一二日から平成一〇年一〇月三一日まで一日当たり七二八円の過去のオムツ代を請求している。しかしながら、3で判示したとおり、原告は既に一日当たり一三〇〇円の入院雑費を認められており、右入院雑費には右オムツ代が含まれているとみるべきである。そうすると、原告の入院期間中である平成六年二月一二日から平成七年二月二八日まで(国立水戸病院、大洗海岸病院及び勝田病院に入院)、平成九年一一月二〇日から同年一二月一九日まで(順天堂医院に入院)及び平成一〇年一月一四日から同年三月一七日まで(山梨温泉病院に入院)の各期間(合計四七五日間)においては、オムツ代の請求はできないことになる。したがって、平成六年二月一二日から平成一〇年一〇月三一日までの一七二三日間のうち、オムツ代を請求できるのは、一二四八日間になる。証拠(甲四二号証の1、2、四三号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告のオムツ代は一日当たり七二八円であることが認められるから、右一二四八日間のオムツ代は九〇万八五四四円になる。

将来のオムツ代については、平成一〇年一一月一日以降前記平均余命(症状固定時から五九年)まで五五年間支出するものと推認できるから、中間利息をライプニッツ方式により控除して計算すると四〇七万三四三四円となる。

七二八×三六五×(一八・八七五七-三・五四五九)=四、〇七三、四三四(円未満切捨て)

してみると、過去及び将来のオムツ代の合計額は、四九八万一九七八円となる。

22  将来の看護用具購入費等 合計三四万八一八三円

(一) 通院用ワゴン買換費用

原告は、将来の通院用ワゴンの買換費用として五七〇万七三七九円を請求している。しかし、20で判示したとおり将来のリハビリのための通院についてはその必要性が明らかではないから、現時点では原告主張の将来の通院用ワゴン買換費用も損害とは認められない。

(二) 車椅子買換費用 九万〇八八二円

前判示の原告の後遺障害の程度内容、証拠(甲一一号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、車椅子を終生必要とすること、平成七年七月に車椅子(価額代金一一万一二〇〇円)を公費補助を受けて購入(自己負担額二万二〇〇〇円)して使用中であること、身体障害者であるので将来の買換え時にも公費補助が受けられること、車椅子の耐用年数は四年であることが認められる。そして、平成一一年以降平成六五年(原告の余命の終期)までの間、四年ごとに買い換える(一四回)費用中自己負担額(二万二〇〇〇円)の本件事故時における現価(ライプニッツ方式により中間利息を控除)を計算すると、九万〇八八二円となる。

(計算式)二二、〇〇〇×(〇・七八三五+〇・六四四六+〇・五三〇三+〇・四三六二+〇・三五八九+〇・二九五三+〇・二四二九+〇・一九九八+〇・一六四四+〇・一三五二+〇・一一一二+〇・〇九一五+〇・〇七五三+〇・〇六一九)=九〇、八八二

(三) エアマット買換費用 二五万七三〇一円

前判示の原告の後遺障害の程度内容、証拠(甲一〇号証)及び弁論の全趣旨によれば、原告の介護をするにはエアマットが終生必要であること、平成七年一月にエアマットを代金一三万八〇〇〇円で購入して使用中であること、エアマットの耐用年数は八年であることが認められる。そして、平成一五年以降平成六五年(原告の余命の終期)までの間、八年ごとに買い換える(七回)費用(一三万八〇〇〇円)の本件事故時における現価(ライプニッツ方式により中間利息を控除)を計算すると、二五万七三〇一円となる。

(計算式)一三八、〇〇〇×(〇・六四四六+〇・四三六二+〇・二九五三+〇・一九九八+〇・一三五二+〇・〇九一五+〇・〇六一九)=二五七、三〇一

23  合計

以上の損害金額を合計すると一億六二〇五万六八三一円となる。

三  過失相殺について

1  本件事故の概況

まず、本件事故の概況につき判断するに、証拠(甲二号証、二〇号証、乙一号証、二号証)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故現場及び付近の状況は、別紙図面に記載のとおりである。本件事故は、平成六年二月一二日午前三時三五分ころ、<×>地点で発生した。<×>地点は、本件交差点内の中央からやゝ西側に寄った地点に位置する。本件交差点は、信号機により交通整理がなされていた。

(二) 原告は、原告車を運転してJR勝田駅方面から東海村方面に向かい北行二車線の西側車線を走行中本件交差点に差しかかり、本件交差点内を直進していた。

(三) 被告小松伸一は、被告車を運転して国道六号線方面から本件交差点に向かって大島陸橋上を走行した上、本件交差点内の<×>地点で直進中の原告車に衝突した。

(四) 衝突後、被告車は<5>地点に逆さまになった状態で停止し、原告車は<い>地点で停止した。

2  原告の赤信号無視の有無

被告富士火災は、原告は対面信号が赤色を表示していたのにこれを無視ないし看過して本件交差点に進入した過失があるので、過失相殺がなされるべきである旨主張する。

そして、被告富士火災は、被告小松伸一が別紙図面の<1>地点で対面信号が赤(青右折矢印)であることを確認したこと、信号機の信号サイクル表示の内容及び被告車の推定速度を総合する等して推論を重ね、原告の対面信号が赤色であった旨主張する。しかし、本件全証拠によっても、原告の対面信号が赤色であったことを認めることはできない。

かえって、証拠(甲一六号証、乙一号証、二号証、一〇号証の2、証人川崎有三)及び弁論の全趣旨によれば、以下のことが認められる。

(一) 被告小松伸一は、当裁判所に手書きの答弁書を提出し、これにより訴状記載の本件事故の態様(「青信号にて交差点を直進中であった被害車両に、赤信号無視にて直進した加害車両が交差点内で衝突したものであり、加害者側の一方的過失によって生じた事故である。」と記載されている。)を認めた上「たしかに原因は自分の赤信号無視がおこした事故です」と記述している。

(二) 被告小松伸一は、別紙図面の<1>地点で一二九・九メートル先にある対面信号機(本件交差点の南西付近に位置する)の信号が赤(青右折矢印)であることを確認した。その後、被告小松伸一は、信号を確認しないまま進行し本件交差点に進入した。<2>地点でやや減速したが、<1><2><3><4>のいずれの地点においても、被告車の速度は不明である。そして、本件事故当時の本件交差点の信号のサイクルは、別紙信号機サイクル表記載のとおりである。これによると、被告小松伸一の対面信号は、赤(青右折矢印)が三秒点灯したのち、黄色三秒、全赤二秒、赤四四秒の各点灯が続く。他方、原告の対面信号は、赤が三二秒点灯したのち、全赤二秒(被告小松伸一の対面信号の全赤二秒と同時に点灯)となり、青三五秒に移行する。そうすると、被告小松伸一の対面信号の赤(青右折矢印)が点灯してから八秒後に、また、同信号の赤(青右折矢印)が終わってから五秒後に、原告の対面信号は赤から青に変わることになる。仮に被告車の平均速度が、時速七〇キロメートル(秒速一九・四メートル)だとすれば、<1>地点から本件交差点まで約六・六秒で到達し、時速四〇キロメートル(秒速一一・一メートル)だとすれば、<1>地点から本件交差点まで約一一・六秒で到達する。してみると、被告車の平均速度が時速七〇キロメートルに近く、かつ、被告小松伸一が<1>地点で確認した赤(青右折矢印)が点灯したばかりの場合であれば、原告車が本件交差点に進入するときその対面信号が全赤である可能性があるが、それ以外の多くの場合は原告車は対面信号青で本件交差点に進入することになる。そして、被告車は<2>地点でやや減速したのであるから、その平均速度が時速七〇キロメートルに近かったとはいい難くなる。

以上を総合すると、原告車が本件交差点に進入したとき対面信号が青であった蓋然性が高いといえる。

(三) 被告小松伸一は、本件事故当時アルコールを帯びて運転をしていた。

右に判示したことをも併せ考えると、被告富士火災の前記赤信号無視の主張は採用できないことになる。そして、他に過失相殺を認めるに足りる証拠はないので、本件において過失相殺はできないことになる。

四  損害のてん補(既払金額の控除)

前記のとおり、原告が自賠責保険から三一二〇万円の損害のてん補を受けたことは当事者間に争いがないから、これを前記損害金額合計一億六二〇五万六八三一円から控除すると、残額は一億三〇八五万六八三一円になる。

五  弁護士費用

原告が本件訴訟の遂行を原告訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件事案の内容、審理経過、請求認容額等諸般の事情に照らすと、弁護士費用については、九〇〇万円をもって本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

六  定期金賠償判決の可否

被告富士火災は、「当事者の申立の有無に関係なく、裁判所が相当と認めれば、定期金賠償判決を下しうると解するのが相当である。」との見解を前提にして、本件につき定期金賠償判決をすべき旨主張している。

しかしながら、原告が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合に、裁判所は定期金による支払を命ずる判決をすることはできないものと解するのが相当であり(最高裁判決昭和六二年二月六日・判例時報一二三二号一〇〇頁参照)、この理は、新民事訴訟法が一一七条で定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えを認め、二四八条で損害額の裁量認定を認めた下でも変わりがないというべきである。

そして、本件においては、原告は明瞭に一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしており、予備的かつ黙示的にでも定期金賠償判決を求めてはいないことが、当裁判所に顕著である。

してみると、本件において定期金による支払を命ずる判決をすることはできず、被告富士火災の右主張は採用できない。

七  本件保険契約がてん補する損害の範囲

1  弁護士費用

被告富士火災は、「被告保険会社に対する訴訟のため保険会社が自分を相手とした訴訟の弁護士に要した費用を保険給付するようなことは予定外のあり得ないところであるから、かかる弁護士費用は保険給付外というべきである。」と主張する。

しかしながら、甲四号証によれば、本件保険契約の約款第3章8条1項には、被告富士火災が保険金を支払うべき損害の額は、賠償義務者が被保険者である原告が被った損害について法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額によって定める旨の条項があることが認められる。そして、原告が、本件のように任意に履行しない賠償義務者に訴訟を提起している場合には、原告が右訴訟で負担した弁護士費用のうち相当因果関係にある前記九〇〇万円は、賠償義務者が法律上負担すべきものになるから、右約款第3章8条1項に基づき、被告富士火災は、原告が被った損害として、原告に対し、右九〇〇万円を支払う義務があるものと解すべきである。

してみると、被告富士火災の右主張は採用できない。

2  遅延損害金

原告は、右約款第3章8条1項により賠償義務者が法律上負担すべき原告の損害の中には、本件事故日からの遅延損害金をも含む旨主張する。

しかしながら、本件保険契約の無保険車傷害保険は、被保険者である原告に対し、賠償義務者の加入する自賠責保険及び任意対人賠償保険によってもてん補されない損害を補完するものであり、被告富士火災が保険金を支払うべき損害の範囲については、保険金請求権者である原告と賠償義務者間における損害賠償額の確定を要件とせず、右約款第3章8条2項(甲四号証)によれば、保険金請求権者と被告富士火災との協議等のてん補額確定手続により決定するのであるから、賠償義務者が原告に対する賠償義務の不履行により負担する遅延損害金の支払まで本件保険契約がてん補するものと解釈することはできない。それゆえ、原告の右主張は採用できない。

ところで、証拠(甲三七号証、原告法定代理人)によれば、原告法定代理人は平成七年七月二六日被告富士火災に対し本件保険契約に基づく保険金の請求をしたことが認められるから、被告富士火災はその翌日である平成七年七月二七日から遅滞に陥る。

3  まとめ

以上によれば、被告富士火災が原告に対し本件保険契約に基づき保険金を支払うべき損害の額は、一億三九八五万六八三一円(既払金額控除後の損害金額一億三〇八五万六八三一円に前記弁護士費用九〇〇万円を加えた額)となる。

八  以上によれば、原告の請求は、被告小松伸一に対し、金一億三九八五万六八三一円及びこれに対する本件事故発生の日である平成六年二月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、被告富士火災に対し、金一億三九八五万六八三一円及びこれに対する請求の日の翌日である平成七年七月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるが、被告らに対するその余の請求は理由がないことになる。

(裁判官 中野信也)

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